年金財政は少なくとも5年ごとに財政検証を行い、年金制度がこの先100年にわたって維持できるかどうかなどの年金財政の健全性を検証しています。
最新の年金財政の検証結果が2024年7月に発表されました。検証内容をみると、年金額は現在65歳の人がもらっている金額よりも、現在30歳の人が将来もらう金額のほうが多くなる見込みという結果になっています。
少子高齢化により「将来の年金額は減る」と思っている人には寝耳に水状態ですが、年金額と所得代替率の関係を踏まえて、将来の年金額の見通しについて解説します。
2024年時点での年金の所得代替率は61.2%
財政検証を行い、所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には給付・保険料負担のあり方について検討し、所要の措置を講じることになっています。
所得代替率とは現役男子の平均手取り収入額に対する年金額の比率により表され、公的年金の給付水準を示す指標です。
所得代替率(61.2%)=(夫婦2人の基礎年金(13.4万円)+ 夫の厚生年金(9.2万円))/ 現役男子の平均手取り収入額(37万円)
2024年度は所得代替率が61.2%と50%を大きく上回っていますので、しばらく保険料の値上げや年金の給付削減はないと考えられます。
モデル年金の将来見通し
所得代替率の算出には時代遅れとして有名な「夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金の合計額」が使われています。
40年勤務した会社員の夫と専業主婦または扶養内パートの妻という世帯がモデル世帯となっています。
そのモデル世帯の年金予測は次の通りです。
〇成長型経済移行・継続ケース
・2040年度:25.1万円
・2060年度:33.8万円
2024年度の金額22.6万円を大きく上回る
〇過去30年の経済成長反映ケース
・2040年度:21.6万円
・2060年度:21.4万円
2024年度の金額22.6万円を下回る
ただし、どちらのケースも2024年度と比較して所得代替率は低下しています。
つまりインフレや賃上げで実際の年金額は増えますが、所得代替率は減少するというカラクリがあります。
そもそも低成長だと実際の年金額も減少していますが・・・
1人当たり年金額の将来予測
それでは男女の1人当たりの平均年金額の将来予測はどうなっているのでしょうか?
成長型経済移行・継続ケースにおける1人当たりの平均年金額は次のような試算結果となっています。
・2024年:男性14.9万円、女性9.3万円
・2039年:男性15.6万円、女性10.9万円
・2049年:男性18.0万円、女性13.2万円
・2059年:男性21.6万円、女性16.4万円
次に過去30年と同じような成長だった場合の年金額を見てみましょう。
・2024年:男性14.9万円、女性9.3万円
・2039年:男性14.1万円、女性9.8万円
・2049年:男性14.1万円、女性9.9万円
・2059年:男性14.7万円、女性10.7万円
女性はどちらのケースでも若年層の方が年金額が多くなっています。これは女性の労働参加が拡大による厚生年金加入期間の延長が要因であり、年金額も物価の伸びを上回って上昇すると予測されているからです。
一方、男性は過去30年と同じ成長だと年金額は減額すると予想されています。
それでも男女の平均年金額の合計は2059年(現在の30歳が65歳になる年)が最も高くなっています。
このように経済が順調に成長しても、過去30年と同じような低成長でも今の30代の方が年金額は多くなります。ただし、その分賃金も上昇するので、所得代替率は2024年度より低いでしょう。
まとめ
将来の年金額は過去30年と同じような低成長でも2059年の男女の平均年金額の合計が最も高くなると予想されており、その金額は2024年度よりも高くなっています。
老後の年金について今の30代は「今よりも年金額は少なくなる」と考えている人が多いと思いますが、意外な結果だと思われる人もいるかもしれません。
ただし所得代替率は2024年よりも低下しますので、年金額は増えますが生活が豊かになるわけではありません。
むしろ物価の上昇で年金額は増えても、生活はより苦しくなる可能性の方が高いと思います。