厚生年金というとサラリーマンや公務員の老後の年金というイメージが強いですが、正しくは「厚生年金保険」であり、保険制度です。
厚年法1条の目的にも「保険給付を行い・・・」の文言があります。
労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
厚生年金保険法の目的(厚年法1条)
厚生年金は少子高齢化により、将来的な給付が今よりも少なくなるというのが一般的な理解です。
しかし現在の給付額がどのような基準で決まっているかは、ほとんど知られていません。
本記事では厚生年金の年金額に関わる法律から、厚生年金の支給額がどのように決まっているかを理解し、将来の給付額がどのような水準になるかを推察していきます。
私は国民年金と確定拠出年金はお勧めします。
厚生年金も障害年金や遺族年金も制度が充実しており、民間保険よりはマシですが、その未来は他の年金より厳しくなると予測しています。
厚生年金の年金額はどう決まるのか?
厚生年金の年金額は給料と被保険者期間(加入期間)の月数で決まります。
平成15年から平均標準報酬月額(給与のみ)→平均標準報酬額(給与+賞与)に改定されているので、平成15年前後で計算式が若干異なります。
①平成15年3月までの被保険者期間分
平均標準報酬月額×再評価率×0.007125×被保険者期間の月数
②平成15年4月以後の被保険者期間分
平均標準報酬額×再評価率×0.005481×被保険者期間の月数
年金額は①+②の合計額
(一定の要件を満たす配偶者や子がいる場合は加給年金額が加算される)
平均標準報酬額:被保険者であった全期間の給与と賞与の総額を被保険者期間で割った額(生涯の平均年収÷12みたいなもの)
国民年金は加入月数で決まりますが、厚生年金は加入月数だけでなく、給料でも変動してきます。
平均標準報酬額が40万円(生涯の平均年収が約480万円)、20歳から60歳まで40年間(480月)加入していた場合の厚生年金額は約105万円となります。
この105万円は1年間で貰える年金額です。
1ヶ月当たり約8.8万円です。
20歳から60歳まで厚生年金に加入している場合、国民年金にも加入していることになるので、国民年金も満額の約78万円支給されます。
よって老後の年金(厚生年金+国民年金)は105万円+78万円=183万円(毎月約15万円)となります。
これが通常であれば65歳から支給されます。
また年金は繰上げ・下げ支給が可能です。
〇繰上げ支給
60歳から可能だが、1ヶ月繰り上げると0.4%減額(昭和37年4月1日以前生まれは0.5%減額)される。
60歳から支給開始すると、0.4%×60月(5年)=24%減額される。
〇繰下げ支給
10年間(75歳まで)繰下げ可能。
1ヶ月繰り下げると0.7%増額。
75歳から支給開始すると、0.7%×120月(10年)=84%増額される。
上記の例の厚生年金105万円を繰り上げ・下げするとこうなります。
・繰上げ(60歳から支給):105万円→79.8万円(24%減額)
・繰上げ(63歳から支給):105万円→95万円(9.6%減額)
・繰下げ(68歳から支給):105万円→131.5万円(25%増額)
・繰下げ(70歳から支給):105万円→149万円(42%増額)
・繰下げ(75歳から支給):105万円→193万円(84%増額)
国民年金も同様の繰り上げ・繰下げが可能です。
厚生年金の年金額は改定(減額)されるのか?
厚生年金保険の年金額は国民生活の水準や賃金などに著しい変動が生じた場合は速やかに年金額の改定を行うことが法律決められています。
厚生年金保険法による年金たる保険給付は、国民の生活水準、賃金、その他の諸事情に著しい変動が生じた場合には、変動後の諸事情に応ずるため、速やかな改定の措置を講ぜられなければならない。
厚年法2条の2
また厚生年金は財政の均衡(保険料+国庫負担と保険給付の費用)を保たなければならず、財政の均衡が損なわれる場合も所要の措置が講ぜられることになっています。
この財政の均衡期間は100年であり、少なくとも5年ごとに財政の現況及び見通しを作成(財政検証)することになっています。
このように国民の生活水準や賃金だけでなく、厚生年金の保険料と保険給付のバランスも考慮に入れて年金額は改定されるのです。
こうのように考えると、インフレ等で国民の生活水準に著しい変動があっても、厚生年金の財政均衡が悪くなれば、年金額は増額どころか減額される可能性もあるということです。
年金保険料アップは打ち止め?
厚生年金の保険料率は平成16年の改正から毎年0.354%ずつ引き上げられていましたが、平成29年(2017年)からは現在の18.3%で打ち止めになっており、保険料水準固定方式を取っています。
(参考)平成16年10月~平成17年8月:13.9%
この20年で約4.4%の増額(労使折半のため労働者負担は2.2%)
年収480万円であれば、約10万円の増税になります。(労働者負担分のみ)
保険料水準固定方式は現役世代の負担をこれ以上重くしないで、年金給付額の削減に切り込むためだと解釈しています。
そのため今後は保険料アップよりは年金給付額の減額か支給開始年齢の引き下げで財政の均衡を図ると考えます。
厚生年金の将来給付額は今の半額になることも・・・
個人事業主やフリーランスが増える=厚生年金未加入者が増える
これからは「個人で稼ぐ時代」と言われています。
そのような世界では個人事業主やフリーランスが増えると予想されていますよね。
現在の労働者人口の内、自営業やフリーランスは約10%ですが、これが20~30%になるとの予測もありますし、実際にそうなると個人的には考えています。
自営業やフリーランスは国民年金やiDeCo(確定拠出年金)には加入できますが、厚生年金には加入できません。
現役世代の個人事業主やフリーランスが増えると、厚生年金加入者は減ります。
加入者が減れば入ってくる保険料も当然減ります。
現在はパートやアルバイトで働く基準を満たした労働者にも厚生年金に入れるようになっています。
そうしなければ保険料が徴収できないからです。
厚生年金の仕組みは積み立て式ではなく、賦課方式(今の現役世代が年金受給者を支える制度)です。
私達が年金を貰う頃には、自営業やフリーランスが増えて、厚生年金加入者は激減している可能性があります。
そして保険料も上げづらい・・・
そうなれば当然、厚生年金支給額は減額されます。
厚生年金給付額が20~30%減るのは確実か・・・
現在労働人口に占める自営業やフリーランスは10%ですが、この割合が20~30%になれば、保険料収入は20~30%減ることになります。
そうなれば財政の均衡を保つために給付額が20~30%減額される可能性があります。
超少子高齢化の影響で現在の労働力人口でも将来的な給付は20%程度減額と言われています。
さらに政府の予想よりも出生数はかなり下がっています。
1987年(現在35歳):約134万人
2022年(推計):約77万人
この35年で出生数は43%減少しています。
このような推移を辿れば、厚生年金はさらなる減額がり、合計で50%以上減額する可能性もあるかもしれません。
厚生年金だけに頼らず、自助努力をするべし
このように将来的には厚生年金は現在の半額以下の給付額になる可能性もあります。
厚生年金も破綻を防ぐためには年金給付額の減額と併せて、年金受給開始年齢の引き下げがあります。
現在は65歳から支給開始ですが、おそらく70歳~75歳にずれていくでしょう。
これは生涯現役で仕事をしたり、確定拠出年金や配当金などの不労所得の準備も必要となってきます。
2024年開始の新NISA制度や昨年10月のiDeCo拡充もそれを助けてくれます。
未来はどうなるか分かりませんから、今できることに注力して備えておく必要がありますね。